「酔うってのも、見方によればいいことだと思うんだ」
「自分を抑制してるものが外れる」
手首を軽く回し、氷が揺れるさまを眺める。
光が反射して瞳に滑り込む。その中に、彼女の視線が映りこんでいた気がした。
「例えば、秘めた気持ちを告白することも幾分楽に出来る」
顔の向きも視線も変えないが、意識はうかがうように隣へ。
「自分の言葉じゃない、って言うこともできない?」
「そう、かもしれないな」
自分の言葉、というフレーズを飲み込んで、
相変わらずこの人はと思った。手厳しいものだが、だからこそとも思う。
「そんなものは信じられない」
そう言い、グラスを手にとって中身を少し流し込む。
俺もそれに倣い(ならい)、グラスに口をつける。
「それにね」
グラスを口元にあてたまま、続きを語り出す。
「酔ってるなんて、半分眠ってるようなものじゃない?
寝言を聞かされても、素直に全部を喜べないよ
・・・どんなに、嬉しいことでもね」
「そうか」
その表情はあきれるようでも、つまらないようでも、僅かに笑っているようでもあり。
本当は何を想っているかは、分からなかった。
苦笑をはっと浮かべて、グラスの残りを煽る。
さて、もう一杯頼むかな。
それは貴方の瞳から拾い上げた私を
貴方の思うように組み上げたパズルでしかない
ピースの角が合わなくたって
それは貴方の思いのままの形になるのだから
ほんの少しの断片だけを拾い上げる
それは拾う時点で既に選ばれている
自分で新しいピースを加える
思いのままの形にピースの形を変えることもできる
同じ絵を組み上げているつもりでも
ピースの形も、組み上げる過程も違う
そして・・・、完成したその絵も、違う
だから
分かり合えるはずが無いのだ
人間など
「もうどうでもいいの」
床は朱に彩を変え、染みていく。
力なく横たわっている女が独り。
「なにがどう、どうでもいいんだ?」
問う、男。
「なにもかも
既になにがどうでもいいかも、どうでもいい」
答える、少女。私。
視線が、少しの諦めと大半のあきれを混ぜて満たされる。
彼は、言葉で答えるという選択肢を棄てることにしたようだった。
そして、彼の答えは。
袖をまくりあげて、手首から肘の内側にまで残る幾つもの傷を見せること。
「よく見てみ?」
手首に残る幾つもの痕。
即ち、今の私と同じだった証。
「何度も命を捨てた そのはずだった
それでも自分は生きている」
そして、その傷の上に新しい傷を作る。
「それでも自分は生きているんだ」
薄く切った傷からは、紅い血がぽたぽたと滴り落ちる。
私の朱と紅が混ざり、したたる滴は私に飲まれて消えていく。
その様子をどれくらい眺めていたのだろうか。
気付けば、朱は私から流れ出すことはなくなっている。
左腕に、いびつな結び目。
「あと2年生きろ。そしたら俺が食ってやる」
真剣なのかからかってるのか、今ひとつ分からないシリアスさを持った顔で言ってきた。
ぼんやりとした頭の中には、肯定も否定も用意されていない。
ただ、思ったことだけ言葉にする。
「本当・・・ わかんないね
間違いないことは あなたはあきれるくらいの馬鹿ということなんだろうけど」
そう言いながら、どこか笑みを取り戻していた自分が居た。
笑い方を、少しは思い出したのかな。
「こう、現代日本には美しさが無いね」
「ほう、それは何故に?」
「暖衣飽食の世の中となってしまった今では
ものあはれというものが微塵も感じられないのだよ
派手で煌びやかな心では、そういう芸術を創れはしないからね」
「まぁ、それは一理あるかもしれん」
「昔の文豪を見てみるがいい」
芝居がかった仕草で、あごに手を当てて背筋を少し反り気味に話を続ける。
「名が売れようが、彼らの置かれた環境は決して楽なものではなかった」
そして左足を軸足にターン。
「風が吹けば倒れそうな家屋、貼り付けたような壁や屋根
わびしさが漂ってくるじゃないか」
「我が家を見て言うな」
「このわびしさと同居するせつなき美しさを一言で言うなれば」
「言うなれば?」
「小風雅トタン調」
ガッ
「寝てろ」
恋だとか愛だとか そんなに綺麗なものなのかい?
大衆論に惑わされているだけじゃないかい?
真実の愛とそんなに言うなら 君の左手に残るその跡はなんだい?
Loveholic Paradise
あぁ 神様 世界は壊滅的な伝染病に侵されてるよ
アンタが仕掛けたんだろ? なんて酷い奴なんだ
俺は騙されないぜ さぁ ここを抜け出してやろうか
君の左手に残るその跡はなんだい?
何度も傷ついて 何を求めてるの?
お手軽な奴に手を出して また傷つくつもりかい
くだらないしょうがない 愛というものはハカナキモノ
しっかり握ってるつもりでも ひとりじゃ持ってられないんだぜ
お手軽な奴に手を出せば またすり抜けるように消えてくさ
そう この世界は LoveholicParadise
Easyな快楽に身を寄せて 今日もココロがナイテイル街さ
あぁ 神様 あんたの唇に俺の白い羽根をくれてやる
このくだらない愛が欲しいんだろ? ホントにそれで満足かい?
俺は騙されないぜ さぁ ここを抜け出してやろうか
乗るかい?
「あは・・・ きれーい・・・」
「ねぇ・・・?何を、何をしたの・・・?」
既に分かっている。でも精神が拒否しているのだろう。
何が起こったかはこのどす黒い赤を見りゃ馬鹿でもわかるだろうに。
奴の服は見事とも思えるほどの恐ろしい赤に染まり、一人の男が血溜まりに突っ伏している。
その原因を作り出した奴の膝の上には、男の頭が。
即座に認めるには、一般人にゃ刺激が強いか。
「わたしのものにならないなら・・・殺しちゃった」
理由は、明解。
「この人・・・おかしいよ、歪んでる」
「いや、純粋じゃねぇか」
肯定の台詞を吐きながら、手元はその逆を示す動き。
弾丸を、込める。
「歪んでいるとするなら、それは俺らのほうだろ
"普通の人"のほうが圧倒的に縛られるものが多い
法律やら倫理やらな」
きっちり金具がかんだ事を確認して、銃の感じを確認する。
「自分らが一般的だと思うことに沿っているものを"純粋"と呼んでいるだけで
その純粋は既に歪んでるんだよ」
そして、銃身を前に。
「常識だって、押し付けられてるもんだ」
一寸も外さず、照準は眉間に。
「押し付けられて、歪まないはずがないだろ」
「ただまぁ」
引金は、炸裂する直前。
「純粋すぎるがな」
2005/10/03 update ↓
その音をその指を絡めて
貴方が臨むものはどこに
幾つかの言葉すらも私には残さなくて
貴方は貴方の草原を歩いているのでしょうか
私は空を見つめながら
どんよりと濁る青に矛盾を覚えながら
今夜の星を放り投げる
光ははじけてそらじゅうに散って
今日も夜空を彩る
その瞳が空に届かないから
星を投げるのは私の役目
届くことの無い光を
左手の上で転がして また今夜も眠る
私の足元にひとつかけらが落ちてきて
笛の音は鳴り始めた
今夜も私は
夜空に星を放り投げる
排除する
強きもの全てを
排除する
非情と忘却なるものを
排除する
弱さを振りまく全てを
排除する
怠惰と自惚れなるものを
排除する
静かなるものを
排除する
静観と停止なるものを
その存在すべてを
それは世界を維持するためなのだ
増徴する存在は進化とともに癌細胞へと成り果てた
星が埋もれてしまう前に切除しなければいけない
この星は永遠でなければいけない
ゼロへと向かう意識の中で
私は最後を排除する
最後を呼んだことにも気がつかず
共鳴 消えて
2005/10/04 update ↓
αの音が響く
静かな夜の帳に揺れて
聞こえはしないはずの音
なのになぜ音と言うのかと?
当然だろう
鳴らない音が 聞こえるのだから
鳴らないからこそ 聞こえるのだから
静寂の中に潜む鼓動
かすかに震うそれが静寂を走るのか
全く震わないからこそ感じるのか
分からないけどそれは確かに
わたしの肌を 耳を 震わしている
ほら 君にも聞こえるだろう?
月が閉じて星が騒ぎ
闇色に飾る夜がくる
新たな時間の境目には
まぶたが閉じられたその夜には
Ωの音が響く
2005/10/05 update ↓
公園の端にある6段しかない階段
それがここと外との境界
ほんのすこし周りより低いここ
柵はなぜかそれでいて高くて
籠のなかのようだと今の私は思った
あのころを思い出そうとすると思い出せない
ぼんやりと ああ何やってたんだろうなって
何であんなに楽しかったんだろうなって
何も知らなかったのに考えることは限りなかったなって
小さくて少し低い公園だったけど
そこから見る木々はとても高くて
空はどこから見るよりずっと広かった
10年ぶりの再会の夜
すっかり小さくなったブランコに腰掛けて
三日月のブルーイエローと街灯のホワイトオレンジに
少し酔わされている私なのでした
2005/10/06 update ↓
寄り添う音 縋るとばり
今日も夜を抱きしめる
すこし前まであったそこには
もう何もなく
黒じゃない夜の色が
隙間を埋めるように塗られていく
強くつかむと逃げていって
捕まえることはできない
それでいて手を伸ばさないと
どこまでも走っていく
そんな夜の空気
そんな夜の黒じゃない黒
昼間差した太陽の光は
もう既にぬくもりを失って
今はもう既に消えたかもしれない星の光だけが
ここに届いて
干した布団のかおりも
もう貴方の匂いがしないのです
2005/10/07 update ↓
光が今日も私達を貫いて
命はそこにあり続ける
黒が黒であるのもそこに光があるから
腕を振るうと影が動いて
違う光が私を貫いていることがわかる
あたたかなとげが刺さっているのだけど
当たり前のように私達を貫いてきたから
それがとても大きなもので
楔や槍だとは思わなくて
今日も私達を貫いているのだけど
変わらずに空から落ちてくるから
それを落ちているとも気づかなくて
空は今日も青いと感じて
もしかしたら
私の腕を貫いているこのあたたかなとげは
誰かに投げられるかなって
思ったりするのですが
はてさて・・・
こんなにあたたかいものを
私が誰かに投げられるのかな
これを抜くのにも
たいへんな苦労が必要な気がするのだけど
私に今わかるのは
今日もいい日だということだけです
2005/10/08 update ↓
「そういう実装がされている」
それが世界の輪廻
このだだっぴろい空間に
我ら人間と呼ばれる種は息づいている
第三の青と呼ばれる空間
他の際限なく広がるといわれる程の空間の中に
第三の青は存在する と実装された
我ら人間は第三の青に生息する と実装された
その事実を知りうる者は誰もいない
我もまた事実を知る者ではなく
「事実を知る者」を実装された存在に過ぎない
そのことに気付いたとき
我は除外された
想定されるべきでない存在に変わり果てたために
我の存在は塵と化した
新たな実装を
ただ空虚な空間だけが待つ
世界と呼ばれるそれは
複雑にはめ合わせてできた
想定された機能の集合にすぎなかったのだ
2005/10/09 update ↓
想像されるものの全てが
その人にとっての世界だということ
それがお分かりにならないかしら?
そうね そうよね
私の言葉はそう
あなたの想像されるものには
当てはまらないものよね
つまりはそれがあなたにとっての世界ということなのだけれども
それが分からないのもまた
あなたの世界が揺ぎ無く確固たるものであるということよね
世界は人の数だけあるけれそ
その数々の世界を見ることとても難しいわね
世界がひとつというフレーズは
つまりは自分の世界しか存在を認識できない証ね
それだけ多くの人が
自分の世界しかないということなのよ
あさましい生き物ね 全く
ええ それは私を含めてなのけど
だからといってあなたは自分の存在を否定するのかしら
2005/10/10 update ↓
最短距離の世界を生きる君へ
足踏みはそんなにはずかしいかい?
失敗続きの奴はそんなにみっともないかい?
うん、君が悪いわけじゃないんだけどね
空気はそういう風に人々にまとわりついているからさ
ここは君とは違う場所かもしれないけど
ほんとは同じところに立っているんだよ?
流れる風が少し違うだけで
こんなにも違うものが出来上がってしまうんだ
同じ場所に立っている私のことを
君には見えているのかな
ひとは自分だけの風を持ちたがるけど
ばらばらに吹くことはすごく嫌がるよね
ただ強く速く吹く風を求めてる
それが今の空気なんだよね
私は私だけの風を見つけられて
気ままに歩いているよ
もちろん他人の風にも乗ってながれてもいるけどね
君の風も感じている
どんな気持ちで吹いているかも
君の風が私の髪をなびかせるときは
てのひらをそっと合わせて
そうすれば私は
鏡の前に立つように
君のもとに行けるから
2005/10/11 update ↓
「いただきまーす」
彼女の口の大きさからすれば「ほおばる」といったほうが正しい
ほおばるって響きは可愛いのだが 漢字にすると頬張るで
いかにも必死のように見えるなぁと
どうでもいい考えが浮かんだ自分に少し笑ってしまった
笑った俺に気づいたようで 少し不機嫌そうにこちらを見つめている
自分の様子を見て馬鹿にされてるとでも思ったようだ
頬にはまだ口の中のものがあるようで
そのせいで 怒ってむくれたようにも見える
「むあ」
ぼーっとしていたのだろう 気付けば頬をつねられている
つねってくるが握力があまりないので痛いほどでもない
もちろん、あっても本気でしてくるつもりはないだろうけど
こちらに向けるのは 俺の頬をつねる腕と
軽い怒りと不思議さが半々くらいで混ざったような表情
俺の意識がこちらに戻ったことを感じ取ると
嬉しそうにまた食事を再開する
「紅茶、おかわり頼んでいい?」
「はいはい」
2005/10/12 update ↓
「おう」
「うぃ、ひさしぶり俺」
ここは無限に広がり分岐する大樹の上
といってもひとつのイメージの形でしかない
広大に広がる世界のモデルのひとつだ
それは俺の想像したモデルなのだが
まあ、俺自身の世界だから当然といえば当然か
「ここ、また広がっとるな」
「まあな、今はけっこう誰でも世界を広げれるけんな」
そう、人の数だけ世界がある
その世界を見た誰かが、また世界を広げていく
いくつもその連鎖が広がって、平行に進行する世界が生まれていく
同じ根より上った幹 そこから育った枝が決してぶつかることは無いように
あるべき形を幾つももっている世界のそれぞれ同士は交わることは無い
ただ 葉は擦れ合うこともある
交わらずとも少なからず 平行した世界は影響しあっている
それは変化を生み出す 緩慢であったり 急激であったり
運命と呼ばれるそれは絶対的なものと捉われているが
結局は起こってからそう思われているに過ぎない
交わらずとも 絡み合う世界
大きく息を吸って 自分が自分であることを確認し
また目の前にいる存在が自分であって自分ではなく
そして間違いなくお互いは自分であったという認識を持つことを
静かに再確認する
「ほな、また今度な」
「うぃ、今度は酒でも買うてくるわ」
そう笑いかけて、髪の色は自分と似つきもしない自分へ軽く手をあげた。
あの人
そのことを心に決めていたとしても
満足のいく別れができなかったこと
そのことが尾を引いているのだろうか
いや そうではないな
やはり私はあの人のことが好きなのだろう
だからといって今更どうこう言うつもりもない
それにもう 折れた剣だ
互いに刺し貫いた刃
抉り取ったその肉片
流れ落ちた血
俺に見えはしなかった涙
これで歯車が欠けていないというなら
現実というのは至極つまらない御都合主義の三文小説だ
でも
一度は、いや何度もと言えばいいんだろうか
絆を感じてしまったその想いは
運命を奏でてしまったその喉は
回り続けることだけは
静かに続いていて
速さ遅さは関係なく
ただ続いていて
足は動く
腕を掲げる
瞳は遠く
心は渇く
新しい光を見つけた私は
その資格があるのだろうかと
永遠と私とともにあるであろう月の
欠けたそこに空の黒よりも深い闇色が存在するようで
少しの恐れを覚えた
問いかける
けれど答えはなく
途絶えた絆と
結ばれた絆
比べようのないその感覚を暖かくも寂しくも
赦されがたいものだとも
感じて
時々右腕を千切り落としてしまいたくなる
私はここに立っていていいのだろうか
それはくだらない問いだ
私の一部は至極冷静で時折冷酷だ
十分に分かっている 私はひとつの存在であり
その内面はひとつであるはずがないのだから
今の望みはただ
不器用でも以前と同じ色の糸を貰って
新しく手に入れた暖色系の細い糸を混ぜて
再び編まれた糸の上で
以前より少し不器用な歌を歌いながら
うとうとと温もりを感じて
眠るか眠らないかの境界で
かすかな幸せを感じたい
2005/10/13 update ↓
舞い落ちるグリーンリーフ
白と灰色に混じった肌
あんなにも温かかった太陽が
今はなんとも頼りない
変わってはないはずなのに
濃い橙色のクレヨンで描きなぐったような陽光が
薄く伸ばした飴色のガラス細工
肌に触れる陽光は眠る
白と灰色の重ね歌
変わらないような穏やかさの中で
みんな目を背けてる
禍根爪弾く闇色の気配
誰もが視線の先にあることを知っている
逸らしてもまたずっとその先にあるのに
地面に落ちたグリーンリーグ
みずみずしい色を保ったまま
ただひとり切り離されて
とても鮮やかな緑のままなのに
この白と灰色の肌に重なるの
2005/10/14 update ↓
空白を埋めるため生きてるのか
空白を忘れるため生きてるのか
その答えを考えるだけでも
空白が増えていくことにも気付かず
ひさしぶりに目にしたその顔は
嫌味と懐かしさと、鈍い憎しみと、わずかな安堵
えぐれた空間に光が差し込んで
今まで忘れていたそこがあらわになるのを
わたしは嬉しいような切ないような
確かにわかるのは痛みがあるということ
相変わらずだねとあなたは言う
酷いなと、苦味をひとつまみほど加えた微笑で私は返す
それはお互い様というものと私が言うと
そうかもね、と寂しそうで
なぜだかこの瞬間に私は
時間というものの
壊れた人形の翳った表情のような
うつろな速度を思い知らされたようで
ぶきような様子で溜息とともに笑った
顔をあわせたのは居酒屋の前だった
こんなところで出会うとは軽く言えば奇遇というものだ
そして語らうところとすればここほど適したところはないと
ここ何年かの私は思っている
3年ぶりの再会は突然でもあり
忘れてはいないけど長いことしまわれた記憶は
突然開かれたカーテンに目が開けられなくて
お互いに戸惑いを含みながらも
店の中にゆっくりと踏み入る
喧騒と店員の忙しそうな様子が迎えてくれたことに
少し安堵しながらわたしは奥の空席にあなたを導く
少し強めのお酒を頼んで
あなたはお酒になれたのか張り合ったつもりか
同じものでとすまして言う
忙しさの割りに早々と運ばれてきた飲み物を
わたしよりも先に口をつける
あなたがお酒にあまり強くないことを思い出して
すでに少し舌足らずになっているあなたに気付く
あまり変わっていないあなたにくすりと笑いながら
宴と呼ぶにはつつましやかなこの時間を少し楽しみに思った
2005/10/15 update ↓
この世界に何を求める?
強さと答えた人が居た。
強くなることに全てを惜しまなかった。
多くの魔物を屠り、血肉を浴びた。
独りで彷徨い続けた。
そのうちのある者は、禁呪に魅入り、禁忌を犯した。
ある者はそのうちに強さに溺れ、自分以外の者を蔑むようになった。
富と答えた人が居た。
金を得るためにはどのようなことでもした。
金に綺麗も汚いも存在しない。
それが口癖だった。
他人を陥れ、死体を漁り、売れるものは何でも売った。
手に入れたものそれは、仮初とも知らずに。
愛と答えた人が居た。
仲間を求め、伴侶を求め、ともに歩んでいると錯覚していた。
確かに彼の周りに人は尽きなかった。
だがそれは自分のための集まりに過ぎなかった。
衝突の数も、別れの数もまた多し。
寄り添い縋り突き放し、繰り返すだけ。
何も求めないと答えた人が居た。
ならばなぜこの大地の上に立っているのか。
私が問うと命を絶った。
自分がそこに立っていることに気付かされて。
絶望という言葉が似合いそうな笑みを浮かべて。
分かっていないのだ、誰もが空虚であり満たされぬことを。
人々は荒み、世界は荒廃していく。まだ堕ちる。
神は人々を見てはいない。大地に這いずる者達の心を吸い上げ、奪うだけ。
穢れ穢れり輪廻の輪。
下へ下へ、底へ底へ。
冥きへ続く、終わりなき螺旋の世界。
嗚呼、なんと罪深きかな、人間よ。
2005/10/16 update ↓
そんなんじゃ何言ってるかわからない
言うんなら鼓膜裂くつもりで
大声張り上げないとわかんない
大声をあげるくらい言えないのなら
もうずっと黙っててくれ
中途半端なことを言って
俺を惑わさないでくれ
優しい言葉をそっと言って
俺を殺さないでくれ
欲しいのはそんなんじゃない
甘く飾った言葉じゃない
退きぼやかした言葉じゃない
そんなんじゃ聞こえやしない
言うんなら全て薙ぎ払うつもりで
その言葉で砕け散らせるくらいで
伝えてくれないとわかんない
自分の心に、記憶に
コラージュ繰り返して
それは本当?それは嘘?
うまく歩けることしか考えていないの
何がどう私に触れているのか
それを教えてくれない?
目の前にいるようで背中に触れているようだから
よくわからないんだよ
ねぇ
私、今うまく歩けてるかな?
自分じゃよくわからないんだよ
教えて、くれない?
2005/10/24 update ↓
ちいさな宝石の粒を飲み込んだような
そんな感覚
くらい天上の海を越えてやってきた
冷たい星の欠片は
するりと喉におさまった
さっきので無くなってしまったので
コップいっぱいに入れてみる
とたんにしゅうしゅうと
細かな泡がくらい流動体のあちこちから湧き立つ
それは甘くて、見た目のくらさと裏腹に
ぱりぱりとはじけていく
きづけばなにもかもが
からっぽになっていた
ぬるくなったコーラを氷の詰まったコップに注ぐ
注ぐと言うよりは乱暴に傾けた
氷はちいさく ちいさくなっていた
残りを飲み干したその喉に感じた小さな痛み
ちいさな宝石の粒を飲み込んだような
そんな気がした
2005/11/15 update ↓
α、アルファ、アルファ
はじまりのうた、遥かな昔の音
ここからうまれる、はじまりの文字
祝福の文字、ここから何もかもが始まって今がある
呪わしい文字、これがなければなにも痛むことはないのに
ただそこにある文字、なにかがあるからこれがあるという事実
わたしにはもうわからない文字
はじまりの文字、わたしの辞書から抜け落ちた
なければなにもなくなるから
Stun、スタン、スタン
痺れる心、止まる思考、動かない体
わんわんとなにかが響いて
一切のものそれは表面的なものだけでなく
ありとあらゆる抽象的なものまで
わたしのすべてを動かなくする
あるのは何かが響いているということだけ
わんわんと、わたしの感覚全てに
Raid、レイド、レイド
突然と衝撃とを混ぜた水
流れ込む想い、重い、おもい
私を壊す
痛い、濁流、火のように攻められて
わたしはわたしを責めて
Clay、クレイ、クレイ
ぐちゃぐちゃになったかたまり
誰がこねてくれるだろうか
触れるとしっとりとしているようで
ねばついた油が手にまとわりつき
独特のにおいがねちゃりとする
爪の間に残る罪と嫌悪を
誰かがわたしの代わりに洗い流してくれるだろうか
ぬけがらのそれを綺麗につくってくれたら
わたしはそこにもどれるだろうか
おねがい、あそんで
やさしいひとよ
無心に触れてくれるなら
わたしは息をできるかもしれないの
Case、ケース、ケース
わたしのわたしのちいさな箱庭
いまはここにある心
なるべくそのままよごさないように
きれいにきれいにラッピング
ほんとの真実すべての真相
わたしだけしかしらなくて
わたしだけしかわからない
わたしがわたしでなくなってしまう
わたし以外にしってほしいこと
ちいさな箱に収まった私の
中は今も飾り気もないそのままだけど
いつか誰かが開けるかもしれない
期待と恐怖をときどき感じながら
この暗闇がとても心地よくて
私はずっと眠るの
症例番号74417
こころとからだが離れてしまう
今はそれほど珍しくない
生きているのに突然動かなくなってしまう
それは病気と呼んでいいのか
彼らを病人と断言していいのか
それは私も迷いを持つ
ひとは独りで生きていけないのに
独りで生きていこうとすることを強要しているような
無理に全てをわからなくてもいいのに
全てがわかるなんてありえないのに
自分ですらすべてをわからないのに
全てわからないことに苦しまなくていいのに
わかろうとするその優しさを
お互いに自然にゆるやかに
それだけでいいはずなのに
ぱりぱりとしたとても速い波の立つ海と
ざあざあとゆっくりと大きく波の立つ海の
狭間で私も立っている事は
彼らと何もかわらないのだけど
ともかくただ言える事は
今は珍しくもないケース