「もしかしたら、この時計塔を作ったっていう錬金術師さんの私室だったのかもしれないですね」
「あー・・・」
あぁ、そういえばそんな話もあった。
このアルデバランの時計塔は、はるか昔に高名なアルケミストが集まって作ったとされている。
今は見事に魔物の巣窟と化しているが。
錬金術師が作ったということは、何か特別な機能が存在していたのだろうけど、
現在はただのダンジョンと化している。それを知る物は最早居ないだろうな。
「でもそうだとして、その人だけが使ってたってわけじゃないんじゃない?
使える薬もけっこうあったみたいだし、そもそも机の上に道具が置きっぱなしだったんでしょ?」
彼女はきょとんとした感じで私の話を聞いている。
いや・・・、ぽやーっとした感じって言ったほうが、しっくり来るかな。
私の意図していることは伝わっていないことは確かだ。
「この時計塔が出来たのはかなり昔のことでしょ
昔としてもここ何年か前、この部屋を使ってた人が居るってこと」
「あぁ!確かにそうですよね!」
・・・ぇー。今気付いたんだ。
この子・・・。なんか抜けてるなぁ・・・。
「机に道具が置きっぱなしってことは、直ぐに戻ってくるつもりだったのかもしれないね」
「うーん。成る程っ」
「成る程って・・・」
・・・いやいや、感心してないでそれくらいは予想しようよ。
自分が使ってる部屋なんだから。気にしようよ。
「私が見つけたときは、ほこりがたまって長いこと誰も入った様子が無かったですし
私が暫くここへ立ち寄ってても、長いこと誰も入ってくることも無かったですし
それじゃー使っちゃえって。ここなら失敗しても誰にも見つからないですし!」
「・・・むしろそれが重要?」
「・・・はい」
肯定の返事をして、照れくさそうに頬を人差し指でかいている。
間違いない、天然に分類される人間だ、この人。


「ふぅ」
掃除も終わったし、ここにはWizの私にとって有益なものでもなさそうだ。
「それじゃ、私はこれくらいで」
そう言って早足に去ろうとする。
けっこう時間も経ってしまったし、予定では今日中にLvを上げてしまうつもりだった。
予定が狂うのは、あまり好きではない。
「あっ、ちょっと待って」
引き止められ、頭に手をあてて振り向いた。
「コーヒーあるんですけど、折角ですから飲んでいきません?」
・・・飲んでいきません?って、もうカップやドリッパーが机の上に用意されている。
いつの間に。

仕方ない。今日はもうこのアルケミストに付き合うことにしよう。

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