「このコーヒーも、錬金術の成果?」
ちょっと悪戯っぽく微笑んでみながら、彼女にそう言ってみる。
「そんなところですね。趣味の賜物です」
そして、最上級の微笑を私に返す。
なんとなく嬉しくなり、私も微笑み返す。
視線を彼女に向けながら、自分がこんな表情をしていたのは、遠い昔のことだったように思っていた。
こうやって和やかに微笑うなんて、ひさしぶりかもしれない。
自然に浮かんでくる微笑に、心地よささえ感じていた。


「さて・・・」
カップの中身は既に空になっていたが、長々と話し込んでしまった。
さすがに時間が無くなった、仕方ない。
「名残惜しいけど、これでおいとますることにするよ」
「あぁ、もうこんな時間になってたんですね
長々とお付き合いしていただいて、ありがとうございます」
「いや、美味しいコーヒーが飲めてよかったよ」
カップの底に少しだけ、琥珀が残っている。
目を細めて、カップのふちを中指でつっとなぞった。
「今日は、本当に楽しかったです」
それは私の方も同じだった。コーヒーだけじゃない。
色々なものを与えてもらった。
きっと、これから楽しいことがたくさん待っているだろう。
私がこの世界でやることは変わりないだろうけど、それでも。
ひさしぶりの良き出逢いが、そのことを保障している気がする。
「あの、よければまた・・・」
私は背を向けたまま、ふっと微笑んだ。
彼女の言葉をさえぎって、その意志があることを伝える。

「今度ここへ来るときはケーキを持ってくる。
それに合うコーヒー、期待してるよ。」

役目を終えたコーヒー豆の粉の中心には、虹色の細かな泡が浮かんでいた。
どこか、誇らしげに。





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