風の裏側に位置しているのか、風は強くない。
ここは塔の3階か4階だろう。アルデバランの美しい街並みがよく見える。
風車がゆっくりと回り、白い街並みは太陽の光と水路の反射光の二つの光で、より美しく映る。
私に背もたれのついた椅子をすすめて、彼女は簡素な丸椅子に腰掛けた。
白いレースのついたテーブルクロスをかけ、丸い机の上にコーヒーカップを並べると、コーヒーをカップに緩やかに注いでいく。
注がれる滴が陽光を受けて、綺麗に透き通る。
光の粒が、単一ではない黒の彩りを温かに躍らせる。
これを見ると、どこかの誰かが琥珀色と表現したのが、なんとなく納得できる。
「ほら、コーヒーって勉強のときとか朝とか、忙しいときに飲むことが多いと思わないです?
味わうことって、そういうときにはできないですよね。」
私のほうを入れ終わって、自分のほうにコーヒーを入れながら語る。
「ただ苦いだけじゃないんです、苦味だけでもまろやかな苦味やきつい苦味もある。
それに豆の種類や製法、淹れ方で酸味や渋み、深みなんかが変わったりするんです。」
そういうと手が止まり、傾きを十分に得られないため、コーヒーが注がれなくなる。
「昔はよく見ず知らずの方とお話してたんですが、最近ではそういうのって全然無くて」
ちょっと伏目がちに言葉を放つ彼女は、なにか残念そうな感じを言葉に乗せていた。
「なにか、寂しかったんですよね」
いつの間にか当たり前になっていたけれど、干渉しないことが。
それぞれが自分の目的のために、効率を求める、金を稼ぐ、いい装備を揃える、Bossを狩る。
確かに昔は、見ず知らずの人と話すことがすごく多かった。
他愛もないことで人が集まったり、協力してイベントを開催したり。
狩場で会話が始まり、そのまま何時間も話し続けることも全く珍しくないことだった。
「何か、ちょっと今日は嬉しくて」
照れくさそうに、視線を外してはいるが嬉しさをこちらに向けていた。
私は、この珈琲通のアルケミストにひとときの時間を支払うことにした。
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