睡眠を続行することにしたが、やはり場所が悪いか。
帰還の陣がどこかしこで音を立てながら現れ、冒険者達が次いで現れる。
ごった返しの状態だ。
仕方ない、場所を移すことにするか。
聖書をどけたとき、目の前にあるチャット看板に目が行って、
・・・わろーた。
チャット看板に書かれているのは
『ヒールよろw』
ハッハッハ
折角なので聖域一発お見舞いしてやらー。
ポケットから青色の石を取り出す。
ジェムストーンと言って、特殊な魔術や法術に必要な力を補填する働きを持つ。
また、術の反動を使用者の変わりに負担する働きを持つ石だ。
「生ありし者の願い、空に響き大地に染み、それは輝きを湛えた泉となる。
何者をも安らぎに誘うその地。すべて穢れを祓う。聖域(サンクチュアリ)」
緑色の煌きが地面に広がり、煌きに触れる者を癒す。
他の冒険者たちも、傷を癒すために駆け込んでくる。
あーあーそんな駆け込まんでもと思うと、自然に頬がニヤける。
と、チャット看板が閉じられる。
おそらく完全回復したのだろう。
そしてそのまますたすたと去っていく。
礼無し。
なんもなし。
予想通りの対応ありがとう!
まぁ普通はそのままスルーなんだが、そこをわざと呼び止める。
「あー、ちょっとちょっと」
そのまま歩いて行こうとしたところを呼び止められて、その場で面倒そうに振り向く。
まさしく何の用だと顔で語ってくれている。
俺はそこまで無表情を努めてすたすたと歩いていく。
やばい、気を抜いたら笑うね、これは。
そんな心の中で半笑いの俺がとった行動はというと・・・。
「ん」
ずいっ。
「・・・何だ?」
手を差し出す。
こういう動作が何を意味するのか、誰もが知っているだろう。
「ん」
今度は最大級の笑顔をおまけに、更に前に差し出す。
それはもう素晴らしい作り笑顔で。
「はぁ!?金取んの!?」
「あ?そんなのアタリマエだろ?
こっちはSP削ってジェムも使ってんだ。
労力も金もはたいて見ず知らずの御方に奉仕してんの。ワカル?」
「自分で勝手にやったんだろが」
「あーあー、嫌だネェ。愛が足りねえんじゃないの?」
ま、この場合俺のほうが愛が足りないって言われそうだ。
俺の持論じゃ、愛って無償じゃないのよねっと。
まぁ、この状況で俺の持論が指す愛だと意味が結構ずれてるさな。
この行動の意図は何かと問われると、単に気に入らないから吹っかけてるだけだが。
「別にカネ取ろうってんじゃないの
何?感謝の気持ちとか誠意とかがないとねぇ」
「礼するなんて言ってねーし。座ってればSPなんて回復するじゃん」
すっと一呼吸置いて、さも憐れむような視線と口調を作る。
当然両手は大袈裟に。広げた後、片手を振り上げて糸を引くように手首をひねる。
「・・・おぉ神よ、世界は闇に蝕まれつつあります。
この者に悪意は無いのです。この者をお許し下さい」
「はぁ・・・?あんたキモイよ」
そう言い捨てると、そそくさと去るようにどこかへ行ってしまった。
ためいきを軽くついて、ふっとニヤつく。
「世知辛い世の中になったもんだねぇ」
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