今はもう忘れ去られたのか、少し昔までちょっとした習慣があった。
それは本来死者に対して贈られるものだが、道中倒れた冒険者に花を飾るってのがあった。
起こりは不明だが、それは冒険者達にとっては当然のような習慣 "だった"。
大抵は2zで買えるそこらの雑草のような花を、倒れた奴の周りに飾り付ける。
花でなく骨やらアフロやらべと液やらを撒く、ファンキーな奴も居るが。
その後に祈りなり一言なりを付け加える。
『Amen』系か『南無』系のどっちかが、一番多かったな。
『Amen』はうち流かそれにに近い宗派式のものだ。
『南無』はフェイヨンの宗教かと思ってたが、ちぃと前に船で行けるようになった天津の宗教式らしい。
どちらも略式だが、死んだものにかける祈りの言葉だ。
倒れても意識のある奴は礼を言ったりシャレを言い出したり、皆で似非死体気分を満喫してたもんだ。
お、あったあった。
無造作にポケットに突っ込んでたんで、茎や葉が折れ、ちょっとしんなりとしていた。
オレンジ色をした一輪の花を、くるりと指先で回す。
「ちっと茎が折れとるが勘弁したってくれよ」
聞こえてはいないだろうが、一応断りを入れておいた。
ありきたりすぎてちゃんとした名前もつけられていないその花を、そっと置いてやる。
たまに、マジに死んでしまった奴も居る。
そういう奴には、周り一杯に花や収集品が飾られていた。
最近はマジ死にの奴にすら、この習慣はめっきり見なくなってしまった。
最早忘れられた習慣なのかもしれない。
もしくは、他人に気をかけるってのが薄くなってるのかもしれない。
俺もなんだかんだで最近はやっていない習慣だった。
狩場に行ってもなんだかんだで手の空かない状況が多いし、魔物に盗られることもある。
なにより、しても返答なしだったり倒れたらカプラので即帰るのも居たりで、やりづらかったし気合悪かったからな。
俺の言い訳はそのへんだな。
ちぃと、寂しいか。
ちょっと感傷的になったのが気恥ずかしくなってしまう。
柄じゃない。
「よし、略式だがサービスで本場仕込みの祈りを施してあげよう」
気を失ってるのに聞こえるわけが無いので誰に向けたでもないが、動作宣言をしてみる。
別にサービスでもなんでもないが、こっちも軽く懐かしさに浸らせてもらうとしよう。
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